腱の真ん中か、踵の骨のきわか
アキレス腱が痛いと聞いたら、私はまず指で場所を確かめてもらいます。踵の骨から少し上、腱がきゅっと細くなっているあたりなのか。それとも、骨へ食い込んでいく付け根なのか。
この二つ、進め方がまるで逆になることがあるんですよ。
腱の真ん中あたりが痛むタイプは、少しずつ負荷をかけていく方向と相性がいい。一方、付け根が痛むタイプは同じことをすると悪化しやすい。足首を深く曲げるほど、腱が骨の出っ張りに押しつけられる格好になるからです。
ストレッチを毎日欠かさずやっているのに良くならない。段差にかかとを引っかけて伸ばすほどピリッとくる。そういう方の話を聞くと、たいてい痛む場所は付け根寄りでした。
走り出しは痛い、温まると消える
最初の数分だけ痛くて、そのあとは忘れて走れてしまう。腱まわりのトラブルでよく聞くパターンです。
厄介なのは、消えたことを回復と読み違えやすいところ。痛みが引いたから今日は調子がいい、と距離を伸ばして、翌朝ベッドから降りた瞬間にズキッとくる。この往復を何か月も繰り返してきた方に、私は何人も会ってきました。
判断の材料にすべきは、走行中の感覚ではありません。翌朝の一歩目です。走った翌日、前の日より硬くなっているか、同じか、軽いか。ここを毎朝メモしておくだけで、自分に合う量が見えてきます。
朝のこわばりが日ごとに長引いてきたら、積み上げ方が体の準備を追い越しているサイン。
痛くなったのは今日じゃない
原因を探すとき、私は直近三週間に何が変わったかを聞きます。
距離を一気に伸ばした。ペース走やインターバルを練習に入れた。坂を走り始めた。しばらく休んでいて再開した。大会が近づいて、気持ちごと強度が上がった。シューズを新しくした。
このどれかが、たいてい引っかかります。
心肺は数週間で応えてくれるのに、腱はもっとゆっくりしか変わりません。この時間差のところに痛みが生まれる。走れる体力と、耐えられる腱が、同じ速さで育たないんですね。
久しぶりに再開した方は特に危ない。頭の中の自分は前と同じペースで走れるので、体感より先に脚が出ていってしまう。ただ、腱のほうは休んでいた期間をきっちり記憶しています。
全部休めば戻るのか
痛みが強い時期に量を落とすのは理にかなっています。ただ、完全に止めた状態を長く続けても、腱そのものが強くなるわけではない。休んで痛みが引き、元の量で再開して、また同じ場所が痛む。この繰り返しに心当たりのある方は少なくないでしょう。
走っていいかどうかの目安を、私は三つで見てもらっています。
走っている最中の痛みが、我慢を要するほどでないこと。走り終えたあと、痛みが長く尾を引かないこと。そして翌朝、前日より悪化していないこと。
この三つが保てている範囲でなら、動かしながら整えていく道が選べます。どれかが崩れたら、その日は量を落とす。根性で押し切った翌週に、練習ごと飛ぶほうがよほど痛い。
かかと上げを、どう入れるか
負荷を戻していく入り口として、かかとの上げ下ろしを使います。
両脚で立って、ゆっくり持ち上げ、もっとゆっくり下ろす。下ろす局面に時間をかけるのがコツで、ストンと落とすと意味が薄れます。慣れてきたら片脚へ。
膝を伸ばしたままの型と、膝を軽く曲げた型を両方やってみてください。曲げるとふくらはぎの深い側に効き方が移ります。走っていて痛む位置と照らし合わせながら、感触の出るほうを多めに。
ここで大事な分岐がひとつ。付け根が痛むタイプの方は、段差を使わないでください。かかとを台から下へ落とす動きが、まさに腱を骨へ押しつける形になります。平らな床の上、水平より下げない範囲でとどめる。それだけで反応が変わったという方は多いです。
回数を稼ぐより、下ろす速さを守るほうを優先してほしい。数をこなした満足感は、腱には届きません。
ふくらはぎだけ見ていても届かない
痛むのはアキレス腱でも、原因がそこにあるとは限りません。
足首の曲がる角度を左右で比べてみてください。壁に向かってつま先を少し離して立ち、かかとを浮かせずに膝を壁へ近づけていく。痛む側だけ浅い、という方をよく見かけます。足首が曲がらない分、腱にしわ寄せが集まっている。
もうひとつがお尻です。長い距離の終盤にだけ痛むなら、ここを疑う価値がある。疲れてお尻が働かなくなると、体を前へ運ぶ仕事がふくらはぎ側へ移ります。同じペースで走っているつもりでも、後半だけ腱の仕事量が跳ね上がっている。
着地の位置も見ておきたいところ。体から遠い場所に足を置く走りは、一歩ごとにブレーキがかかります。歩幅を無理に広げず、足の回転を少し細かくするだけで、腱にかかる衝撃の質が変わる方がいます。
靴の落差と、練習を足す順番
シューズを替えた直後に痛くなった。この相談、かなり多いんです。
かかととつま先の高さの差が変わると、着地から蹴り出しまでの足首の動き方が変わります。差の小さい靴へ急に移ると、腱が引き伸ばされる時間が長くなる。レース用の薄い靴を練習に下ろしたときも同じことが起きます。新しい靴は、短い距離から少しずつ混ぜていくのが安全でしょう。
付け根が痛むタイプの方は、靴の後ろ側の硬い部分にも注意を。ここが痛む場所を押し続けると、走っていない時間まで刺激が続きます。
練習内容の足し方にも順番があります。距離、スピード、坂。この三つを同じ週にまとめて増やすと、どれが引き金になったのか分からなくなる。ひとつ足したら数週間ようすを見る。地味ですが、故障の履歴が長い方ほど、この順番を守れていません。
傾いた路肩を毎回同じ向きで走っている方も、たまに折り返してみてください。左右で違う角度がついたまま、何百歩と積み重なっています。
朝の一歩目
起きぬけの一歩が、一日でいちばん腱にこたえる瞬間だったりします。
布団から出る前に、あお向けのまま足首をゆっくり曲げ伸ばししてみてください。つま先を手前へ、次に遠くへ。数往復するだけで、床に足をついたときの感じ方が違います。じわっと動きが戻ってくるのが分かる方もいる。
寝ている間、足首はつま先が伸びた位置で固まりがちです。そこへいきなり全体重をかければ、ガチガチのまま引っぱられる。夜のうちに何かを履くという方法もありますが、まずは布団の中でできることから。

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