重量が順調に伸びていた時期に限って、肘がジワリと痛み出す。 フォームは変えていない。無理な重さでもない。むしろ調子が良かったのに、なぜ今なのか…。
この疑問には、はっきりした答えがあります。筋肉と腱では、強くなる速さが違う。肘の痛みは、その差が表に出た形です。
筋肉と腱は、強くなる速さが違う
筋肉は血流が豊富で、負荷に対して比較的早く応えます。数週間で扱える重量が上がるのは、この性質のおかげ。
腱はそうはいきません。血流が少なく、組織が入れ替わる速度が遅い。筋肉が出せる力が増えても、それを骨へ伝える腱の側は、同じペースでは追いつかない。 肘の内側と外側には、前腕の筋肉が集まって骨へ付く場所があります。ここが、追いつけなかった分を引き受ける。
筋肉が先に強くなり、腱が後から追いかける。この時差の中で、負荷だけが先に増えると痛みが出る。仕組みとしては、それだけの話です。
順調な人ほど、痛めやすい
伸び悩んでいる人は、肘をあまり痛めません。負荷が変わらないから、腱にも余裕がある。 痛めるのは、毎週重量を足し、セット数を増やし、頻度を上げていた人。筋肉の伸びが速い時期ほど、腱との差は開きます。
始めて数か月の時期に肘が痛み出す方が多いのは、この差が最初に大きくなる時期だから。トレーニングが上手くいっている証拠でもある一方で、腱の側から見れば警告です。 順調だからこそ止まりたくない、という気持ちが、さらに差を広げます。
原因は、四つの層で考える
肘の痛みを一つの原因に絞ろうとすると、たいてい見誤ります。四つの層に分けて、どこに当てはまるかを見ていく。
負荷の履歴。ここ数週間で、何をどれだけ増やしたか。 動作の角度。どの種目の、どの局面で痛むか。 肘以外の場所。手首と肩が、必要な動きを出せているか。 回復の条件。睡眠、食事、種目の間隔。
複数に当てはまる方がほとんど。順番に見ていきます。
負荷の履歴に原因がある場合
一番多い層。そして、一番見落とされる層でもあります。
重量を毎回足していた。セット数を先週から増やした。週二回だった上半身を三回にした。押す種目だけが続いた。 どれか一つでも心当たりがあれば、腱は追いついていません。
とくに押す種目と引く種目の偏りは、気づきにくい。ベンチとショルダーとディップスを一週間に集中させれば、肘を伸ばす局面ばかりが積み重なります。 逆に懸垂とロウとカールが続けば、握って引く負担が内側へ集まる。
トレーニング記録を四週間分さかのぼって見てほしい。痛みが出た週の二、三週前に、何かが増えているはずです。
動作の角度に原因がある場合
伸ばし切ってロックする。握り込む力を最大まで使う。手首が反ったり寝たりした角度で支える。前腕の回旋を固定したまま重い負荷を扱う。 この四つのどれかが、痛む種目に入っています。
内側なら握り込みと引く動作、外側なら手首の固定と保持、後ろなら伸ばし切る動作。場所と動きは対応しています。 種目ごとの見直し方と、痛みを外して続ける置き換えについては、別の記事で詳しく書いています。ここでは、角度は原因の一つの層に過ぎない、という点だけ押さえてほしい。
角度を直しても痛みが戻る場合、原因は別の層にあります。
肘以外の場所に原因がある場合
肘は、曲げ伸ばしと前腕の回旋しかできない関節。他の場所の動きの不足を吸収する構造ではありません。
手首が硬いと、支える角度のズレが肘へ落ちる。肩の可動域が足りないと、腕を引く動作のしわ寄せが肘に来る。胸椎が丸まったままだと、押す動作の軌道が崩れて肘の外側に負担が偏る。
しゃがんで手首を反らせる姿勢が取れない。万歳した腕が耳の横まで上がらない。背中で手を組めない。 このどれかに当てはまるなら、肘を休めても同じことが繰り返されます。
回復の条件に原因がある場合
腱の修復は、筋肉より時間がかかります。その時間を削っているものがあれば、負荷が同じでも痛みは出ます。
睡眠が足りない。食事量が落ちている。上半身の種目を連日入れている。仕事で腕を酷使している。 年齢も関係します。腱の入れ替わりは年齢とともにさらにゆっくりになるので、二十代の頃と同じペースで負荷を足せば、差は開きやすい。
トレーニングそのものより、その外側に原因がある方は少なくありません。
初心者と中級者で、原因が違う
始めて半年以内の方は、動作の角度と手首の使い方に原因があることが多い。フォームが定まらないまま、重量だけが伸びる時期です。
一年以上続けている方は、負荷の履歴と回復の条件が主役になる。フォームは安定しているのに、伸ばし方が腱の速度を超えている。
長く続けている方は、特定の種目への偏り。好きな種目を長年続けた結果、同じ角度に負担が積み上がっています。
自分がどの段階にいるかで、最初に見直す層が変わります。
自重トレでも、同じことが起きる
懸垂、ディップス、腕立て伏せ。重りを使わなくても、肘への負担は十分に大きい。 体重は変えられないので、回数を増やすしか進め方がない。その回数の増やし方が、腱の速度を超えることがあります。
とくに懸垂は、握って引く動作の連続。内側に負担が集まりやすい。ディップスは伸ばし切る局面で後ろ側へ。腕立ては手首の角度と、外側へ。 公園で毎日、という習慣を始めた方が数週間で肘を痛める話は、コツコツ続けた人ほど多く聞きます(泣)。
原因を特定する、三つの質問
いつから痛むか。始まった週の二、三週前に何が増えたか。 何を変えたか。種目、重量、頻度、グリップ、器具、生活。 どの動作で痛むか。押す時か、引く時か、伸ばし切る時か、握った時か。
この三つに答えると、四つの層のどこに原因があるか、おおよそ見えてきます。記録をつけていない方は、この機会に。肘の痛みは、記録のない人ほど長引く。
原因別に、最初に変えること
負荷の履歴なら、重量を三割ほど落として、二週間かけて戻す。増やすペースを、週ごとではなく二週ごとに。
動作の角度なら、痛む局面を可動域から外す。グリップと手首の向きを変える。 肘以外の場所なら、手首と肩の可動域を先に戻す。四つんばいで手首に体重をかける、肩甲骨を動かす、胸を開く。
回復の条件なら、上半身の種目を一日おきに。睡眠を優先する。
どれか一つではなく、当てはまる層すべてに手を入れる。一つだけ直して戻った、という話の裏には、残った層があります。
受診を考えるサイン
・日常動作でも痛む、夜に痛む ・しびれ、握力の低下がある ・肘が引っかかる、ロックして動かない瞬間がある ・腫れが引かない、熱を持っている ・数か月続いて、まったく変化がない
腱の話は時間がかかるとはいえ、変化がないまま何か月も過ぎるのは別の問題。整形外科で確認してから、負荷を組み直す方が早く戻れます。
肘の痛みは、筋肉が先に強くなった証拠でもあります。追いついていないのは腱の方。 待ってやる期間を作れば、腱は必ず追いついてくる。焦って差を広げた人だけが、同じ場所で何度も止まります。

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