骨が削れている音ではありません
背中を押してもらうと、肩甲骨のふちでゴリゴリと鳴る。本人にはかなり大きく響くので、骨がすり減っているんじゃないかと不安になりますよね。
その心配は、まず外していいです。
肩甲骨は、肋骨の上に浮くように乗っている平たい骨です。体幹とがっちり組み合った関節を持たず、鎖骨の先で軽くつながっているだけ。あとは筋肉に吊られて位置を保っています。だから肋骨との間には、骨と骨の噛み合わせではなく、何層もの筋肉と、すべりを担当する面が挟まっている。
このすべりが渋くなったところに圧が加わると、層どうしが引っかかりながら動きます。それがあの感触になる。音が骨を伝わって耳へ届くぶん、自分の中では実際より大きく聞こえるという事もあるでしょう。
なぜ、あんなに気持ちいいのか
強い圧が入った瞬間の、あのすっとする感じ。ずっと居座っていた重だるさが、押されている数秒だけ引っ込みます。
もうひとつ、当たった場所が合っていたときの満足感が大きい。自分では手が届かない位置ですからね。
ここで気をつけたいのは、気持ちよさが強さの物差しにならないことです。心地よさを感じる仕組みと、組織が耐えられる範囲は、別々に動いています。
境目は、翌朝に出る
適量だったかどうかは、その場では分かりません。判断は翌朝に持ち越し。
起きたときに前日より軽い、または同じ。ここまでなら範囲内です。逆に、押された場所が重だるい、触ると沁みる、動かすと前より硬い。この状態なら、強すぎた合図として受け取ってください。
毎晩ボールを背中に敷いて体重をかけていた方が、内出血の残った背中で来院されたことがあります。痛みは前より増えていました。本人は真面目に続けていただけなんです。
強く押されないと効かない体になってきた、という感覚があるなら、そこが分岐点。慣れて鈍くなっているだけの可能性があります。
直後は軽い。夕方には戻る
押してもらった帰り道は、肩がふわっと軽い。ところが夕方には、もう元の位置に硬さが戻っている。この繰り返しに心当たりのある方は、かなり多いでしょう。
理由ははっきりしています。肩甲骨そのものが、動いていないから。
圧をかけて一時的に感触が変わっても、その骨がふだん置かれている場所は変わりません。デスクに向かえば腕は前へ出て、肩甲骨は外へ引っぱられたまま何時間も固定される。夜にほぐした分を、翌日の午前中でまるごと戻している計算になります。
押す作業は、いわば表面を撫でて整える手入れ。位置と動きを変えるのは別の仕事です。
自分の肩甲骨は、どれだけ動くか
三つ試してみてください。
ひとつ、手を背中側へ回して、反対側の肩甲骨の内側へ指を差し込めるかどうか。骨のふちに指が入る余地があるか、ぴったり肋骨に張りついているか。
ふたつ、両腕を真上へ上げたとき、腕が耳の横まで来るか。このとき腰が反って帳尻を合わせていないか、壁に背中をつけて確かめると分かりやすい。
みっつ、肩をすくめて後ろへ回したときの左右差。片側だけ引っかかる、片側だけ回りきらない。ここに差が出る方は珍しくありません。
どれかで詰まりを感じたなら、ゴリゴリの正体は動かない骨のまわりに集まった負担です。
潰すより、動かす
やることを絞ります。
まず呼吸。肩甲骨は肋骨の上に乗っているので、肋骨が動かなければ土台ごと固まったまま。椅子に浅く腰かけ、鼻から吸って口から長く吐く。吐くときに肋骨がすーっとしぼんでいく感覚を追いかけてください。それだけです。
次に肘で円を描く動き。両肘を曲げて肩の高さに構え、大きくゆっくり回します。速く回すと肩の力だけで済ませてしまうので、遅いほど背中側に届く。
四つん這いになって背中を丸め、次に反らせる。この上下運動も入れておきたい。肩甲骨は背骨の動きに引っぱられて位置を変えるので、背骨が固まっていると単独では動きにくいんです。
最後に胸の前側。壁に手をついて体を反対側へゆっくりひねる。胸から腕の付け根がじわっと伸びたら、そこで止めて息を吐く。前で縮んでいるものを放置したまま、後ろだけ押しても綱引きは終わりません。
ボールや機器を当てるなら
道具を使う方も多いので、線引きだけ置いておきます。
背骨の真上には当てない。骨の出っ張りを直接狙わない。脇の下は避ける。この三つを守ってください。血管や神経が通る場所へ強い圧を長時間かけるのは、得るものより失うものが大きい。
時間も区切ったほうがいい。ゴリゴリを探して十分二十分と粘る使い方は、翌朝の重だるさに直結します。腕や指にしびれが出たら、その時点で中止です。
音を鳴らすこと自体が目的になっていないか。ここだけ、たまに振り返ってみてください。
日中の腕が、夜のゴリゴリを作る
肩甲骨まわりが固まる人の一日を追うと、腕がずっと体の前にあります。
画面に向かう時間、スマホを持つ時間、料理をする時間。全部、腕が前で完結する動きです。頭上へ手を伸ばす場面が、生活からほぼ消えている方も多い。
同じ側でばかり鞄を持つ癖、片肘をついて座る癖、腕を体の下に敷いて眠る癖。こういう小さな偏りが、ガチガチの背中を毎日せっせと作っています。
高い棚のものを取る、洗濯物を上に干す、伸びをする。腕を上へ運ぶ動作を一日に何度か挟むだけで、肩甲骨の通り道が保たれやすくなる。ジムに行く話より、こちらのほうが現実的でしょう。

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