股関節がコリコリすると相談を受けたとき、最初に確かめるのは位置です。
脚の付け根の前側、太ももと下腹の境目あたりなのか。腰の横、骨盤の外側にある出っ張りのあたりなのか。それとも、お尻の奥のほうから響いてくるのか。
出どころが違えば、関わっている組織も対処も変わります。まとめて股関節の音として扱うから、いくら回しても手応えが出ない。
前側で鳴る場合、背骨から股関節の前を通って脚へ渡る筋肉と、その腱が関わっていることがあります。骨盤の縁を腱が乗り越えるときに、コリッと引っかかる。脚を曲げ伸ばしする途中の決まった角度で鳴るなら、この線が濃い。
外側なら、太ももの外を縦に走る帯状の組織と、骨の出っ張りの関係。横向きに寝返りを打った瞬間や、歩くたびにゴリッとくるという方が多いですね。
分かっている部分と、そうでない部分
音の正体を一つに決めたがる気持ちは分かります。ただ、感触だけで発生源を特定するのは、実際のところ難しい。
腱が骨の上を滑る動き、関節を包む組織の伸び縮み、関節の中で起きる圧の変化。候補が複数あって、しかも重なっていることもある。分からない部分を分かったふりで埋めても、あなたの判断材料は増えません。
そこで、音そのものより伴っているものを見る方向へ切り替えます。実際、現場で経過を分けているのはこちらです。
放置していい音と、そうでない音
線を引きます。
音や感触だけで、痛みがない。左右で似た鳴り方をする。動く範囲に制限がない。日によって鳴ったり鳴らなかったりする。ここまでなら、体の使い方を整えていく段階でしょう。
一方、鳴るたびにズキッとくる。脚の付け根の前側が深く痛む。歩くと足を引きずってしまう。動かす途中で引っかかって止まる。あぐらがかきにくくなってきた。靴下を履く動作がつらい。夜、じっとしていても痛む。転んだ記憶がある。子どものころ股関節で通院した経験がある。
こちらは別の話です。整形外科で状態を確かめてもらってください。
とくに、脚の付け根の前側の痛みと動く範囲の減少が同時に出ている場合。ここは早めに見てもらうほど選べる手が多い。
毎日確かめる癖
回すとコリッときて、そのあとすっと軽くなる。だから今日も確かめる。気づけば一日に何度も脚を回している方、けっこういますよね(笑)。
軽くなる感覚は本物です。ただ、鳴らす行為そのものが股関節を良くしているわけではありません。鳴らした直後だけ楽になって、夕方には元通り。この往復に心当たりがあるなら、届いていない場所があるということ。
音の出る角度を探して何度も往復させる動きは、同じ組織を同じ場所で擦り続けることにもなります。
鳴ったかどうかを確認するために回すのをやめて、動く範囲を広げるために回す。狙いが変わると、同じ動作でも質が変わってきます。
座っている時間が残していくもの
股関節が固まる人の一日を追うと、共通した形が見えてきます。
膝を曲げ、股関節を曲げた姿勢で何時間も過ごす。前側の筋肉は縮んだまま、お尻の筋肉は伸ばされたまま固定される。立ち上がったとき、前側だけがガチガチになっている。
この配置のまま脚を大きく動かせば、通り道の窮屈なところを無理に通過する形になります。コリコリが増えたと感じる時期を聞くと、在宅勤務が長くなった頃や、車での移動が増えた頃と重なることが多い。
脚を組む癖、片側に体重を預けて立つ癖、いつも同じ向きで横になる癖。片側だけ鳴るという方は、こういう偏りが積み上がっています。
歩数が減った生活も響きます。股関節は歩くことで前後へ振られる関節なので、その機会が消えると、動く範囲そのものが縮んでいく。
その場でできる、二つの確認
自分で試せるものを置いておきます。
ひとつめ。あお向けで両膝を立て、お尻を軽く持ち上げるつもりで骨盤の位置を整えます。その姿勢を保ったまま、片脚をゆっくり曲げ伸ばししてみる。音が小さくなる方は、骨盤の傾きが引っかかりに関わっています。
ふたつめ。立った状態で脚を回す前に、下腹に軽く力を入れて体幹を安定させる。それから動かしてみてください。支えが入るだけで感触が変わることがある。
どちらも、痛みが増すようならそこで中止。無理に鳴り方を変えようとしないこと。
動かす順番
やることを絞ります。順番があります。
最初は呼吸。息を吐くとき、下腹と骨盤の底が働きます。ここが眠っていると、股関節を動かすたびに骨盤ごと持っていかれる。椅子に浅く腰かけて、鼻から吸い、口から長く吐く。吐き切ったところで下腹がじわっと締まる感覚を追いかけてください。
次に骨盤。座ったまま、骨盤を後ろへ倒して背中を丸め、次に前へ起こして腰を反らせる。この前後の往復を、ゆっくり。股関節の受け皿は骨盤なので、土台が動かないと関節の向きも変わりません。
三番目に、股関節を回す方向。あお向けで片膝を立て、内側と外側へ交互に倒します。太ももが内へひねられる動き、外へひねられる動き。この二つに左右差が出る方は多い。片側だけ浅ければ、そこがしわ寄せの入り口です。
そのあとにお尻。椅子に座って片脚を反対の膝に乗せ、背中を丸めないよう気をつけながら体を前へ倒す。外側が伸びたら、そこで息を吐く。
前側の筋肉を伸ばす動きも入れておきたいところ。片膝を床につき、後ろ脚の付け根を前へ送り出す。腰を反らせて帳尻を合わせないよう、下腹を軽く締めたまま行ってください。
ストレッチで悪化する人
真面目に開脚を続けているのに、音も違和感も増えてきた。この相談、少なくありません。
理由のひとつは、伸ばす方向の偏りです。股関節を大きく開く動きばかり繰り返すと、関節を前で支えている組織に負担が集まることがある。柔らかくしようとする気持ちが、支えを緩める方向に働いてしまう。
もうひとつ、可動域の広さと安定は別々の話だという点。ぐらつく関節をさらに広げれば、通り道の管理はさらに難しくなります。柔らかい方ほど鳴りやすいという傾向を、私は現場で何度も見てきました。
伸ばす量を増やす前に、支える力を戻す。順番を入れ替えただけで違和感が減った方がいます。
痛みをこらえて限界まで開く習慣があるなら、そこはいったん手放してほしい。息を止めながら耐えている時点で、体は防御に入っていますから。

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