ベンチプレスでバーを握った瞬間、手首がグキッと反ってズキンとくる。腕立て伏せの体勢をつくると、手のひらの付け根がじんじん痛む。ダンベルを持ち上げるたび、手首だけが悲鳴をあげている。
トレーニングを続けたい気持ちと、痛みへの不安。そのはざまで、とりあえずリストラップを買ってみようか…と検索している人も多いのではないでしょうか。
でも、道具を足す前に見てほしい場所があります。手首は、細い骨がいくつも組み合わさってできた繊細な関節です。そこへ大きな重さが乗るとき、痛むかどうかを分けているのは、たいてい重量そのものではありません。
手首は、重さを支える設計になっていない
手首が痛む理由の芯は、ここにあります。重さを受け止める役目は、本来もっと大きな部位のもの。手首は、その力をつなぐ通り道にすぎません。
にもかかわらず、手首だけが折れ曲がった状態でバーやダンベルを持てば、その一点に負担が集まります。前腕から手のひらへ、力がまっすぐ通り抜けていく形。この一直線が崩れた瞬間、手首は無理をしはじめるわけです。
つまり見るべきは、手首が反りすぎていないか、内側へ折れていないか。ここを整えるだけで、痛みが引いていく人はけっこういます。
始めたばかりの人ほど、手首から痛くなる
トレーニングを始めて数か月。扱える重さが伸びてきて、楽しくなってきた頃に手首が痛み出す。この時期の相談が、いちばん多いんです。
理由はシンプルで、大きな筋肉のほうが先に育つから。胸や脚は、目に見えて力がついてきます。ところが、それを支える手首まわりの細い組織は、同じ速さでは追いつきません。持ち上げられる重さと、手首が耐えられる重さのあいだに、ずれが生まれる。
久しぶりに再開した人も同じ道をたどります。頭の中には、かつて扱えていた重量が残っている。その記憶のまま入ると、手首だけが置いてけぼりに。あれ、こんなに重かったっけ…と戸惑うことになります。
伸び盛りのときこそ、少し抑えめに。物足りないくらいで切り上げる判断が、長い目で見て伸ばしてくれます。
種目別に、崩れやすいポイント
自分がどの場面で痛むのか、思い出しながら読んでみてください。
プレス系で痛むなら、まずバーの置き場所です。指のほうへ浅く握ると、バーの重さで手首がぐいっと後ろへ反ります。手のひらの付け根、いちばん厚みのあるあたりに乗せて、前腕とまっすぐ並ぶ位置を探してみてください。握り方を変えただけで、翌週から痛みが消えた人もいます。
腕立て伏せやプランクで痛むなら、床に手をついたときの角度が問題です。手首を九十度近くまで反らせた状態で、体重を支え続けることになる。手首の角度を浅くできる持ち手を使う、握りこぶしで支える、といった逃げ道があります。
フロントスクワットやオーバーヘッド系なら、手首より先に肩や胸のかたさを疑ってください。肩まわりが硬いと、バーを担いだときの不足分を手首が肩代わりします。手首が痛いのに、原因が肩にある。この構図、わりとよくある話です。
カールなど腕の種目では、握り込みすぎと重量の欲張りが重なりがち。持ち上げたい気持ちが、手首を内側へ巻き込ませます。
見直したい、四つのこと
まず、重量。あと一回、あと五キロ。その欲が、フォームの崩れを連れてきます。手首が痛むときは、いったん重さを落として、まっすぐ力が通る感覚を取り戻すほうが先です。
次に、グリップの幅と握り方。バーを強く握りしめすぎていませんか。がちがちに力むと、前腕まで張りつめて手首の自由が奪われます。
三つめが、準備。冷えたまま高重量にいくのは、手首にとって酷な話です。軽い重さで手首まわりを目覚めさせてから入ると、入りがずいぶん違います。
四つめは、頻度と休み。同じ動きを毎日続ければ、小さな無理が積もります。手首を使う種目が週にどれだけあるか、数えてみてください。
ジムの外での使い方も、案外響いています。一日じゅうキーボードを打ち、スマホを持ち、マウスを握る。手首はトレーニング以外の時間も働き続けているんです。ジムでは完璧なフォームなのに痛みが引かない。そんなときは、デスクの高さや手首の置き方をのぞいてみる価値があります。
リストラップは、答えになる?
痛いからサポーターを、という発想。気持ちは分かります。ただ、順番としては後ろのほうにあります。
手首を巻いて固定すれば、その場は楽になるでしょう。でも、フォームが崩れたまま巻いて重さを上げれば、負担の行き先が変わるだけ。しかも痛みを感じにくくなるぶん、無理に気づけません。フタをして進み続けるのが、いちばん危ういんです。
順番はこうです。まずフォームと重量を見直す。手首が痛まない形をつくる。そのうえで、高重量の日にサポートとして使う。この流れなら、道具はちゃんと味方になってくれます。
痛みを消すために巻くのではなく、整った動きを支えるために巻く。ここ、大事なところです。
続けていい痛み、やめるべき痛み
判断に迷ったときの目安を置いておきます。
その種目のときだけ違和感があり、フォームを直すと軽くなる。終わったあとは尾を引かない。この程度なら、重量を落として様子を見ながら続けられることが多いでしょう。
いっぽう、トレーニング後も痛みが残る。日常でドアノブを回す、ペットボトルを開ける動きで痛む。夜になるとうずく。ここまで来たら、その種目は外してください。
そして、すぐ手を止めてほしいサイン。腫れている、熱を持っている。手や指にしびれがある。力が入らず物を落とす。手首を動かせる範囲が狭くなってきた。ひねった瞬間に音がした。こうした様子があるなら、様子見はやめて医療機関へ。
痛みが出たあと、どう過ごすか
まず、痛む動きを外すこと。トレーニングそのものをやめる必要はありません。手首に体重や負荷が乗らない種目へ切り替えれば、鍛える習慣は保てます。脚の種目、マシンで前腕に負担のかからないもの。工夫の余地はけっこうあるものです。
数週間外したくらいで、積み上げたものが消えることはありません。むしろ痛みを押して続けた結果、長く離脱するほうが失うものは大きい。今は種目を入れ替える時期だと考えれば、気持ちも折れずにすみます。
腫れや熱があるうちは冷やして休ませる。この時期に強く押しほぐそうとするのは避けてください。傷んだ場所への強い圧は、新しい刺激にしかなりません。
戻すときは、一段ずつ。日常で痛まない、軽い重さで痛まない、いつもの重さで痛まない。この順に確かめて進みます。途中で痛みが顔を出したら、ひとつ前へ戻る。焦って一気に戻すと、同じところをまた痛めます…。
手首を守る、ふだんの土台
戻ってからが本番です。整体でお手伝いできるのも、ここから。ケガへの処置ではなく、手首だけに負担を集めない体へ整えていく方向で。
見るべきは、手首まわりだけではありません。前腕のかたさ、肘の動き、肩甲骨の位置。上のほうで支えきれない力は、いちばん先の細い関節へ流れ落ちます。肩が硬いまま高重量を担げば、そのしわ寄せは手首が引き受けることになる。
握力と前腕をこつこつ育てておくのも、手首の助けになります。それから、トレーニングのあとに前腕をゆるめておくこと。使いっぱなしにしないだけで、翌日の張り方が変わりますよ!
手首の痛みは、フォームを見直すきっかけをくれる合図でもあります。重さを追いかける前に、力の通り道を整える。そのほうが、結局は長く重いものを持ち続けられます。

コメント